「年末年始も休まず営業します」は時代遅れ…「365日働く日本人」から撤退した”先進的企業”の英断

「年末年始も休まず営業します」は時代遅れ…「365日働く日本人」から撤退した”先進的企業”の英断

「年末年始も休まず営業します」は時代遅れ…「365日働く日本人」から撤退した”先進的企業”の英断

小売業で24時間365日営業をやめる動きが目立っている。ビジネスコンサルタントの新田龍さんは「人材不足が深刻になっていることを考えると、当然の動きだろう。消費者は『いつでも何でも手に入る』という便利さに慣れているが、不便さを受け入れることが持続可能な社会の実現につながる」という――。

2025年は静かな元日を迎えることに

近畿圏の主要百貨店において、2025年1月2日の営業を休止する動きが報じられた。新春恒例の「初売り」が1日後ろ倒しになるだけの、一見些細な変更に思えるかもしれないが、この動きはわが国の消費文化と労働環境に大きな一石を投じるムーブメントとなるかもしれない。

まず、2025年1月2日の営業休止を発表した百貨店は次の通りだ。

・阪急阪神百貨店

⇒阪急うめだ本店や阪神梅田本店など合わせて10店舗で、元日に加え新たに2日も休業

・高島屋

⇒大阪店や京都店などで、23年ぶりに2日休業に

・大丸松坂屋百貨店

⇒大丸心斎橋店や大丸梅田店、松坂屋高槻店など15店舗で、25年ぶりに元日と2日休業

また「そごう・西武」においても、西武池袋本店、西武渋谷店、西武秋田店、そごう広島店の4店について「2025年元日を休業にする」と発表している。例年、都内の百貨店では池袋と渋谷の西武百貨店だけが元日営業していたが、同店において元日休業となったことで、2025年の元日、東京都内で営業する百貨店はゼロとなる。

大手スーパーも三が日の休業を決断

古くは戦国時代における仙台伊達家の記録「正月仕置之事」に、「1月2日に城下で買い初め」をおこなうとの記述があるほどの長い歴史を持つ「1月2日の初売り」は、もはやわが国の新年の風物詩として定着しているといえよう。しかし近年、この伝統を覆す動きが相次いでいるのだ。

大手スーパーチェーンの「サミット」では2021年から、「ライフコーポレーション」は2022年から、全国のほぼすべての店舗で正月三が日は休業している。当時、サミットでは正月三が日すべてを休業とするのは33年ぶりだったこともあり、ニュースとして報道されるなど大いに話題となった。

24時間営業をやめたいコンビニ3社

年始休業は象徴的な事例だが、これまで「24時間365日営業」が前提であったコンビニエンスストアでも、深夜休業や時短営業に切り替える動きが出ており、昨今の各社の動向は次のようになっている。

・セブン‐イレブン

⇒2019年からガイドラインを策定し、深夜休業を正式に開始。現在は100店舗以上で深夜休業しているうえ、約500店舗で時短営業の実験を継続中。加盟店アンケートでは約2100店(全体の1割強)が時短実験を検討しているとのこと。

・ローソン

⇒2020年2月時点で176店舗が深夜休業を実施。「時短パッケージ」契約形態を導入し、74店舗が採用。横浜市内のFC店では0時から5時まで無人店舗の実験を実施。

・ファミリーマート

⇒2020年3月から加盟店の判断で時短営業を決定可能に。加盟店調査では約7000店(回答店舗の半数)が時短実験を検討とのこと。23時から翌7時までの間で30分単位で休業時間を選択可能。

「年中無休営業」の始まりは50年前

これらの動きの背景にあるのは、深刻化する人手不足だ。小売業界全体で人材確保が難しくなる中、従業員の労働環境改善は喫緊の課題となっている。年始の休業日を増やすことで、従業員や取引先にとってより働きやすい環境を整えることが、この決定の主な目的である。

また、2018年から段階的に進展している働き方改革にまつわる法改正や、それに伴う各社の労働時間管理の厳格化などの影響もあって、消費者側の考え方も変化し、正月休業や時短営業は徐々に受け入れられてきているようだ。

一連の動きは、日本社会全体に蔓延する「年中無休営業」文化への問題提起ともいえる。

実は、わが国でコンビニエンスストアが登場した当時は24時間営業でなかったことをご存知だろうか。24時間営業の店舗が初登場したのは1975年、セブン‐イレブンが福島県内の店舗で24時間営業を開始したところから。同時期に、吉野家やすかいらーくなどの飲食業も24時間営業を始めたことが、日本における年中無休営業の嚆矢といえよう。

「24時間戦えますか」というキャッチコピーに象徴されるバブル期以降、若年層を中心に深夜~早朝の利用ニーズが高まり、コンビニエンスストア側でも宅配便や収納代行、24時間ATMなどのサービスを拡充していったことで、「社会のインフラ」としての存在価値が高まっていった。2008年時点で、主要コンビニチェーン12社のなんと「94.4%」が24時間営業を実施していたのだ。

「便利」の裏には、多くの犠牲があった

この「年中無休営業」文化は、消費者にとって大いに至便であり、顧客満足度を高めてきた一方で、従業員に対しては大きな負担を強いてきた。彼らの長時間労働が土台となって成立していることは大前提であり、かつ深夜勤務となると生活リズムの乱れにより、健康へ悪影響が及ぶこともある。

店舗運営側も大変だ。24時間365日誰かがシフトに入る必要があるため、穴が開かないよう常に採用と教育を継続しなければならず、急に誰かが休み、大体人員の手配がつかなければ社員や店長が現場に出なくてはいけない。当然、休みもなかなか取れない状態となってしまうだろう。

そもそも、従業員に22時から翌朝5時まで働かせる場合、店舗側は深夜残業代として通常より25%増の割増賃金を負担しなければならない。しかし想定よりも来客が少なかった場合、商品の廃棄率は増加するうえ、通常より重たい人件費負担がのしかかり、せっかく頑張って店を開けているのに赤字になるリスクもある。

さらに人の往来が少ない立地だと、強盗や万引きなどの犯罪リスクも高まり、防犯対策の負担もバカにならない。

「不便さ」を受け入れなくてはいけない

すなわちわが国の「消費者に優しい高品質サービス」は、まさに従業員と店舗運営側の犠牲の上に成り立っていたのだ。したがって各社の一連の動きは、単に従業員の労働環境を改善するとの観点だけではなく、魅力的な職場環境を提供することが企業の採用力と競争力強化につながり、ひいては企業の持続可能性を高めるための戦略的な判断であるともいえよう。

そして、労働環境の改善には、企業側の努力だけでなく、消費者の意識改革も必須となる。「いつでも何でも手に入る」という便利さに慣れた消費者にとって、営業時間の短縮や休業日の増加は不便に感じられるかもしれない。

しかし、われわれ一人ひとりがこの「不便さ」を受け入れることこそが、持続可能な社会の実現につながるのだ。

これまでわれわれが、安売店でさえも「お客様」として丁寧に扱われ、うやうやしく接客される高品質サービスが実現できていたのは、あくまで「若い労働力が」「安い賃金で」「いくらでも雇える」という一時的な人口ボーナスタイムの恩恵があったからに過ぎない。

働く世代が減る「人口オーナス」の変化

しかし、わが国の人口は2008年をピークに減少の一途をたどり、生産年齢人口(15歳から64歳)の割合が従属人口(14歳以下と65歳以上の人口合計)の割合に対して相対的に少ない「人口オーナス」状態が世界でもっとも顕著となっている。

人口オーナスになると、消費が活発な働き手が減ることで消費が落ちたり、1人あたりの社会保障費の負担が増加したりするため、経済成長を阻害するとされている。

日本の人口オーナス期入りは人口ピークよりさらに早く、1992年の69.8%を境に生産年齢人口は年々減少を続け、2020年には59.8%にまで減っているのだ。

すなわち、今や「若い労働力」というだけで希少価値、という時代に突入しており、豊富な労働力を前提に回っていた社会のさまざまな仕組みが回らなくなり、今まで若い店員さんが対応してくれていた業務は、自動発券機、自動配膳ロボット、そして自動精算機に置き換わりつつある。

持続可能な「選ばれる会社」になるために

ただでさえ少人数で対応しないと運営が回らない店舗では、店員さんを呼びつけて「この機械の使い方分かんないんだけど‼」と文句を垂れて手間をかけさせる客や、ましてや暴言や怒号、理不尽クレームをつけるような客はどんどん切られていくことになるだろう。

少なくとも、「どうしても生身の人に対応してほしい」と願うのであれば、長い行列に並んだり、「リアル人間対応手数料」といった追加費用を負担したりする覚悟を持つ必要が出てくるかもしれない。

しかも23年9月からは、精神障害を労災認定する時の心理的負荷の基準に、新たに「カスハラ」(顧客から従業員に対する理不尽なクレームや言動)も盛り込まれるようになった。

人手不足が深刻化し、人材確保の難度が劇的に高まっている時代、組織がいかにして従業員の心身の健康を守り、安全な労働環境を提供できるか否かは、今後重要な「会社選びの基準」となっていくであろうし、客側もサービス提供側のこのような変化に対応していかなくてはならないのだ。

百貨店の年始営業休止や、コンビニエンスストアの深夜休業・時短営業の動きは、日本社会に対して「われわれはどのような社会を目指すのか」という大きな問いを投げかけている。

「常に便利で快適なサービスを求める社会」と「労働者の権利と健康を尊重する社会」という相対する価値観のバランスをとるためにも、われわれ一人ひとりが消費行動を見直し、社会全体が協力して、健全で持続可能な労働環境を作り出し、維持していく必要があるだろう。

---------- 新田 龍(にった・りょう) 働き方改革総合研究所株式会社代表取締役 働き方改革総合研究所株式会社代表取締役。労働環境改善、およびレピュテーション改善による業績と従業員満足度向上支援、ビジネスと労務関連のトラブルと炎上予防・解決サポートを手がける。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。 ----------

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